刀の基礎知識

刀の「写し」、「贋作」、「レプリカ」の違い

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刀剣には、「本歌」(本科)と呼ばれる原作刀工による原作刀剣の他に、「写し」、「贋作」、「レプリカ」が存在する場合があります。本歌が優れていればいるほど、「写し」、「贋作」、「レプリカ」が作られるとも言えるのです。「写し」、「贋作」、「レプリカ」とは何なのか。それぞれの違いや作られた目的、メリット(利点)、デメリット(欠点)についてご紹介します。

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「写し」、「贋作」、「レプリカ」の違いとは?

原作刀工による原作刀剣のことを「本歌」(本科)と言います。本歌以外に似たような刀剣が作られたならば、それらはすべて複製品です。

したがって、「写し」も「贋作」(がんさく:日本刀の世界では偽物[ぎぶつ]と言う)も「レプリカ」も、ざっくり言えばすべて複製品。ただし、すべてが同じ意味ではなく材質や本歌に対する敬意によって、きちんと呼び分けられているのです。

写しとは?

刀の「写し」とは本歌を敬い写し取って作った複製品ですが、本物の日本刀のこと。本物とは、材料が「玉鋼」(たまはがね)で作られているという意味です。玉鋼とは、たたら製鉄法によって作られた良質な鋼材で、日本刀の作刀には欠かせない物。つまり、玉鋼で作られているということは本物の日本刀という証なのです。

写しが作られる目的は、本歌の身替りあるいは刀工の腕を磨くためと言われています。例として挙げたいのは、本歌「山姥切」(やまんばきり)と写し「山姥切国広」(やまんばきりくにひろ)。所持していたのは、両者とも戦国時代の武将「長尾顕長」(ながおあきなが)です。

長尾顕長は、足利城(現在の栃木県)の城主。後北条氏「北条氏政」(ほうじょううじまさ)、「北条氏直」(ほうじょううじなお)氏に仕えていました。

本歌・山姥切は、南北朝時代に長船派の刀工「長義」(ながよし)が作った物で、1586年(天正14年)に長尾顕長が北条氏直から賜った名刀です。戸隠山(現在の長野県)で山姥(化物)を退治した刀であることから、山姥切と名付けられました。

一方、写し・山姥切国広は、1590年(天正18年)に長尾顕長が堀川派の始祖である刀工「堀川国広」(ほりかわくにひろ)に依頼して作らせたもの。同年、起こったのが、「豊臣秀吉」による後北条氏への「小田原攻め」です。

長尾顕長も小田原城に立て籠もって戦いましたが、小田原城は落城し後北条氏は滅亡。この際、写し・山姥切国広は後北条氏の家臣「石原甚五左衛門」へと渡り、やはり山姥を切る事件が起きたと言われています。ただし、本歌・山姥切の写しのため、単純に山姥切国広と名前が付いたなど諸説あります。現在は個人蔵です。

後北条氏滅亡後も長尾顕長は生き延びますが、領地は没収されて浪人となり、のちに「佐竹義宣」(さたけよしのぶ)に仕えるようになります。長尾顕長は、江戸幕府初代将軍となる「徳川家康」が江戸に入城する際に、本歌・山姥切を将軍へ献上。現在は徳川美術館(現在の愛知県)に所蔵されています。

長尾顕長が、写し・山姥切国広をなぜ作らせたのかは分かりませんが、本歌の身替りを見事に果たしたと言えます。なお、本歌・山姥切は1949年(昭和24年)に、写し・山姥切国広も1962年(昭和37年)、共に重要文化財に認定されました。本歌、写し共に名刀です。

贋作とは?

映画で使用されるレプリカの刀

刀の「贋作」とは、悪意を持って本歌に似せて作られた複製品(偽物)のこと。悪意とは、お金もうけや他者を欺くなど、害を与える目的のために作られた物という意味です。

材料は玉鋼ではなく、安価な素材。本歌に対して敬意がなく、(なかご)に(めい)をそっくりに切るなど悪質で、犯罪性が高い物と言えます。

レプリカとは?

「レプリカ」の刀とは、映画やドラマ、催事や祭礼などに使用する資料として、故意に本歌に似せて作られた複製品(偽物)のこと。材料は玉鋼ではなく、安価な亜鉛合金やアルミニウムなど。資料を目的に作られているため、犯罪性はありません。

本歌と複製品のメリットとデメリット

本歌に対して存在するのが、「写し」、「贋作」、「レプリカ」という複製品です。

本歌の刀は、世界にひとつだけの物。唯一無二というのが最大のメリットですが、貴重な物だからこそ破損や紛失は許されないのです。また、真剣であるからこそ、手を切るなど自分や他人を傷付ける凶器となるので、取り扱いには充分な注意を必要とします。

本歌にこのようなデメリットがあることから、複製品を作る意味は確かにあると言えます。犯罪性のある贋作は除外して、写し、レプリカを作るメリットやデメリットについてご紹介します。

写しのメリットとデメリット

写しのメリットは、複製品であっても美術品としての価値が高いところです。材質が玉鋼で本物の日本刀であり、名刀をもとに作られているため需要も多いと言えます。

例えば「御物」(ぎょぶつ:皇室の所有物)など、本歌がなかなか一般公開されない場合には写しがあれば本歌の代わりとなり、姿刃文(はもん)、造込みなどを、いつでも観て学ぶことができるようになるのです。

しかし写しのデメリットは、本歌と同様に、真剣であるからこそ、自分や他人を傷付けかねないところ。きちんと手入れをしないと錆が付くなど、メンテナンスが難しい点がデメリットと言えます。

レプリカのメリットとデメリット

レプリカは、素材が玉鋼ではない偽物なので、誤って手などを切断するという心配がなく、安全な点が最大のメリットです。錆防止加工がされている場合もあり、取り扱いやメンテナンスはかなり楽。気軽に触って、学べるなど、資料性にも長けています。

ただし、安価な合金などで作られる場合が多いので、品質は劣ります。

「天下三名槍」の写しを作刀中

名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」(メーハク)では、2021年(令和3年)の開館を記念して、「天下三名槍」(てんがさんめいそう)の写しを作刀中。天下三名槍とは、天下に名だたる3振の素晴らしいのこと。それは、「日本号」(にほんごう)、「御手杵」(おてぎね)、「蜻蛉切」(とんぼぎり)です。

所持していたのは、日本号が戦国武将黒田官兵衛」(くろだかんべえ)家臣の「母里友信」(もりとものぶ)。御手杵は徳川家康の次男「結城秀康」(ゆうきひでやす)。蜻蛉切は徳川家康の重臣「本多忠勝」(ほんだただかつ)です。持ち主の活躍ぶりはもちろんのこと、芸術的にも歴史的にも価値が高いもの。この3振すべての写しを作刀し、揃えて所蔵、展示するという、今までにないプロジェクトが進行しています。

3振すべての写しを作刀する刀工は、あの「上林恒平」(かんばやしつねひら)刀匠。
本歌「山姥切」と写し「山姥切国広」のように、後世で名刀と呼ばれることが期待されます。

上林恒平刀匠は、どの槍から作刀し、いつ出来上がり、展示されるのでしょうか。気になる情報は、「天下三名槍 写し作刀プロジェクト」のページをご確認下さい。

大笹穂槍 銘 学古作長谷堂住恒平彫同人(蜻蛉切写し)
大笹穂槍 銘 学古作長谷堂住恒平彫同人(蜻蛉切写し)
学古作長谷堂住恒平彫同人
令和二年六月日
鑑定区分
未鑑定
刃長
43
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕
名古屋刀剣ワールド
名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」(メーハク)は、最大200振の貴重な刀剣がご覧頂ける博物館です。
現代刀の名工・名匠
現代の日本刀を代表する作品を生み出し、突出した技術を持っている刀匠をご紹介致します。

刀の「写し」、「贋作」、「レプリカ」の違い

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日本刀の書物

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